“軽め”ブラック・サバス 米国版ブラック・サバスとしてブルー・オイスター・カルトがデビューした経緯

ブルー・オイスター・カルト(Blue Öyster Cult)

今回はブルー・オイスター・カルトが、米国版ブラック・サバスとして世にでた経緯について語ります。カルトのファンにはお馴染みのストーリーかと思いますが、おさらいを兼ねてお付き合いいただければ幸いです。

ブラック・サバス Black Sabbathについて
読者の皆さまの中にはブラック・サバスをご存知ない方がいらっしゃるかもしれません。簡単に紹介します。

ブラック・サバス Black Sabbathはイングランド出身のバンドで1970年頃から50年程活動していました。ヘヴィ・メタルの開祖と称される偉大なバンドです。シンガーがオジー・オズボーン→ロニー・ジェイムズ・ディオ→イアン・ギラン→グレン・フューズ→レイ・ギラン→トニー・マーティンと変わり曲調も変化しました。不動のメンバーはギタリストのトニー・アイオミ。トニー・アイオミの個性的なギターサウンドはどの時代も素晴らしく、手掛けたリフが色あせることはないでしょう。詳しくはオフィシャルページをご覧ください。https://www.blacksabbath.com/home.html

管理人の「これまでもこれからも好きな4つのバンド(Black Sabbath, Judas Priest, Pantera, Blue Öyster Cult)」の筆頭がブラック・サバスです。カルトを聴くようになる前からブラック・サバスが大好きでした。サバスは私にとっては実家のようなバンド。安心できるのです。重くてキレのあるギターリフ、正確なリズム、オジーとロニーの声。(計算されて演出された)特異なイメージ。どれもが自分の感覚に馴染み違和感がありません。

管理人所有のBlack Sabbathの6枚目アルバム”Sabotage”のレコードジャケット。後々のスピードメタルの原型のような”Symptom Of The Universe”、劇的な”Supertzar”、うねるギターがかっこいい “Hole In The Sky”、リフがキレキレの “Megalomania”など名曲めじろ押し。1975年にリリースされた名盤。

ブルー・オイスター・カルトのジャケットがサバスっぽかった
管理人が初めて購入したブルー・オイスター・カルトのアルバムは”On Your Feet or on Your Knees”でした。ジャケ買いです。幼少期から好んでいた江戸川乱歩的な雰囲気をアルバムジャケットにみたとお伝えしましたが、別の言い方をすれば「ブラック・サバス的なものを感じた」のです。ゴシック小説の雰囲気、暗黒的なもの、ゆるふわを全面否定している雰囲気。タイトルの”On Your Feet or on Your Knees”(自立しろ、さもなければ服従しろ)を見て、私は「ブラック・サバスの”Children of the Grave”みたいじゃん!」と思ったのです。後々、ブルー・オイスター・カルトはアメリカ版のブラック・サバスとして世に出た経緯があると知り、なるほどと合点がいきました。

管理人所有の”On Your Feet or on Your Knees”「地獄の咆哮」LPジャケット。教会の前に半旗(バンドを象徴するシンボルマークKronos)を掲げた車の構図。

アメリカ版ブラック・サバス誕生の経緯
ブルー・オイスター・カルトは、レーベルの意向でアメリカ版のブラック・サバスとして売り出されたと伝えられており、管理人もそのように理解していました。管理人がBÖCの教科書としている2つの書、Martin Popoff氏の”Agents of Fortune Blue Öyster Cult Story”とJacob Holm-Lupo氏の”on track..Blue Öyster Cult every album, every song”を読み、もう少し深く掘り下げて理解ですることができました。端的にまとめると以下のようになります。

(1)バンドのマネージャーだったSandy PearlmanがコロンビアレコードのプロダクトマネージャーだったMurray Krugmanにコンタクトをとった。

(2)二人はバンドのイメージと楽曲を劇的に変えて世に売り出すことを合意した。(カルトの前身バンドSoft White Underbellyはエレクトラレコードと契約していたものの、アルバムをリリースできず暗礁に乗り上げていた。)

(3)時代を読む力があったSandy Pearlmanはヒッピーカルチャーが終わり、これからはヘヴィ・メタルの時代が来ると主張。ブラック・サバスのような音楽をやったらどうか?とバンドに提案。メンバーは生存をかけた再スタートを希望していたことにより、提案を受け入れる。

(4)バンドはコロンビアレコードのオーディションを受ける。オーディション開催場所はレコード会社の会議室。緊張するあまりスピードメタルのような超速い演奏をしてしまったが、それがウケたのかオーディションは上手くいった。1stアルバムに収録された”Last Days of May”「5月最期の日」は特に高評価だった。

(5)Sandy Pearlmanはアンチヒッピー、ロックの暗黒面的なバンドのイメージを打ち出す。Sandy Pearlmanと評論家のRichard Meltzerも歌詞を提供することになった。プロデューサー側とバンドのメンバーの共同作業で、バンドの屋台骨になる哲学とイメージを磨き上げ、楽曲に反映させて1stアルバムをリリース。

バンドが自発的に、希望してアメリカ版のブラック・サバスとしてデビューしたのではなく、あくまでも売り出すための手段だったということでしょう。ベーシストのJoe Bouchardは以下のように語っています。

(ニューヨークのスタテン島で行われたブラック・サバスのライブをSandy Pearlmanに勧められてメンバーが観たエピソードの続き↓)

“But Sandy was excited about it, and he mentioned it would be great if you guys could do more music like this. So later on after that, we started working on our demos for Colombia and I know that Murray Krugman and Sandy definitely wanted heavy. And I think that it made sense. It was the turn of the decade, ’70, ’71.”(Martin Popoff, 2016, p.11)

このエピソードのまとめの部分でJoe Bouchardは”start over fresh”(仕切り直してやり直す)というフレーズを口にしていました。アメリカ版ブラック・サバスデビュー戦略は、バンドの起死回生をかけたものだったと管理人は感じました。ポップなバンドがビジネスで軽い気持ちでヘヴィ・メタルを名乗ったわけではないのです。

ブラック・サバスが開祖だと言われているヘヴィ・メタルというジャンルをバンドのメンバーはどうとらえていたのか?ギタリストのDonald “Buck Dharma” Roeserは率直に語っています。ドナルドの表現はとても興味深く面白いですね。

“We had all decided that we definitely wanted to be a heavy metal band, in the Sabbath mould, although we would never sound like Sabbath, never had and would. Actually we had no similarity to Sabbath at all. I think the Cult’s always been a light metal band rather than heavy metal, but actually we just redefined heavy metal.”(Martin Popoff, 2016, p.12)

ドナルドのこの説明がすべてではないでしょうか。管理人の訳で恐縮ですが、日本語にするとこんな感じでは?「ブルー・オイスター・カルトのメンバー全員でヘヴィ・メタルバンドになりたいとはっきり決めた。サバスを原型とするような。でも、自分達はサバスっぽく聞こえるサウンドづくりはしたことがない、今後もするつもりはないだろう。カルトとサバスは全然似てない。カルトは重いメタルバンドというよりは、いつにおいても、軽めのメタルバンドでだった。でも、実のところ、カルトはヘヴィ・メタルという音楽を再定義したんだよね。」

まとめ ヘヴィ・メタルの開祖と元祖ヘヴィ・メタル
ブルー・オイスター・カルトがなぜヘビメタではないのに元祖ヘヴィ・メタルと呼ばれているのか?

答え①
・プロデューサー側が、(バンドメンバーも納得したうえで)アメリカ版ブラック・サバスとして売り出したから

管理人は以下も追加したいと思います。

答え②
軽め・重めはともかく、ブルー・オイスター・カルトはメタルを再定義し具現化したバンドであることは間違いないから(ドナルド談参照)

鉄のような無機質な音楽性と特異な思想性、そして、結果的に50年続いたバンドの歴史。ブラック・サバスを彷彿させますね。ブルー・オイスター・カルトは、アメリカ版ブラック・サバス、元祖ヘヴィ・メタルという称号にふさわしいバンドだと改めて実感しました。

偉大な2つのバンドは、1980年にBlack SabbathとBlue Öyster Cultはジョイントツアーを行っています。”BLACK AND BLUE”というタイトルでVHSでリリースされ、DVDはブラジル版のみリリースされていたようです。あいにく、私はVHSもブラジル版DVDも所有しておりません。入手できましたら、ご紹介いたします。

念のために申し上げますが、アメリカ版ブラック・サバスはあくまでもデビュー時のバンドについた称号です。ロックファンは、ブルー・オイスター・カルトを尊敬の念を込めて元祖ヘヴィ・メタルと呼びますが、実際のところ、ブルー・オイスター・カルトがばりばりのヘヴィ・メタルバンドであったことは一度もありません。カルトの楽曲の中でもヘヴィな曲、例えば、”Heaven Forbid”の1曲目”See You in Black”や、最新作の”The Symbol Remains”の”Stand And Fight”などはメタルより。しかし、典型的なヘヴィ・メタルと管理人が位置づける Judas Priest の”Riding On the Wind”や”Painkiller”とは違いますね。隔月刊ハード・ロック・マガジン『炎』1996年5月号に掲載されたEric Bloom のインタビューで、Ericは「誰かがBOCをヘヴィ・メタルと呼びたいなら、それに反対はしないけど、僕自身はハード・ロックと呼ばれる方がシックリくる」(同誌 p.100)と話しています。BÖCは全然ヘビメタじゃないじゃん!というロックファンからのコメントには、その通りです!!とお答えする次第です。

管理人所有の『炎』創刊号 読み応えがあります!!

次回はブラック・サバスを彷彿させるブルー・オイスター・カルトの名曲をご紹介します。シングルカットされた大ヒット曲ではありませんが、カルトを語る上では外せないピリっとした個性のある素晴らしい作品です。ヒット曲だけがカルトの魅力じゃないよということです。引き続きお付き合いいただければ幸いです。

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