Blue Öyster Cultの『Astronomy:天文学』対訳の解説② 歌の冒頭。時計が12時を打ったとき起こったことは?Youとは誰なのか?

ブルー・オイスター・カルト(Blue Öyster Cult)

「天文学」の対訳の解説です。何回かに分けて説明します。まずは「天文学」の登場人物と舞台、あらすじについてです。

<登場人物>
Desdinova デスディノーヴァ
Susie スージー
Carrie 看護師のキャリ―
My dog デスディノーヴァの犬

<舞台>
どこかの浜辺。浜辺からは星がよく見える。浜辺の上には「四方風の亭」という名のバーがある。

<あらすじ>
スージーは結婚を控えた女性。彼女は、風がどこからくるか?を知りたがっている。それは看護師キャリーの持つ地図には示されていない。デスディノーヴァがスージーに風の始まりを教えながら、自分の思いを語っていく。

この曲は「デスディノーヴァの独白」です。デスディノーヴァの思いが滔滔と語られています。まずは冒頭部分の8行について考察を進めます。

Clock strikes twelve and moondrops burst
Out at you from their hiding place
Like acid and oil on a madman’s face
His reason tends to fly away
Like lesser birds on the four winds
Like silver scrapes in May
And now the sands become a crust
Most of you have gone away


時計が12時を打つとき
月の雫が隠れ家から噴き出し
あなたに滴り落ちる
まるで 理性が飛んでいきがちな狂人が
顔に酸と油を浴びるかのように
四方から吹く風に蹴散らされる鳥たちのように
5月にこさえた銀のこすり傷のように
今や 時の砂粒は硬く覆う表皮となり
あなたたちの仲間は数少なくなってしまった


「天文学」のイントロはインパクトがあります。最初の2行でリスナーをBlue Öyster Cultの世界に瞬間移動させるようなパワーフレーズです。

Clock strikes twelve and moondrops burst「時計が12時を打つとき」
Out at you from their hiding place「月の雫が隠れ家から噴き出し」「あなたに滴り落ちる」

月がでている夜。時計が真夜中を告げます。真夜中は新たな一日のスタートです。時計の合図で月の雫が隠れ家から吹き出てきて、降りかる。時計、月の雫が噴き出す、隠れ家、降りかかる・・これらから推測できるのは、新たな局面を迎えて秘密を隠すことができなくなった状態ではないか?と考えました。真夜中は陰の気の最盛期であり、陽の気のスタートでもあります。裏→表の逆転の印象を、管理人は曲の冒頭で受けました。

この後、3つの直喩表現が連続して使われます。共通するのは、ダメージ、損害のイメージです。

Like acid and oil on a madman’s face
His reason tends to fly away
「まるで 理性が飛んでいきがちな狂人が顔に酸と油を浴びるかのように
Like lesser birds on the four winds
「四方から吹く風に蹴散らされる鳥たちのように
Like silver scrapes in May
「5月にこさえた銀のこすり傷のように

“Silver scrapes in May”のMayをどうとらえるか、迷いました。文字通りカレンダーの5月と訳すと意味がわかりません。そこで5月はどういう月なのか?を考えてみました。5月は、西洋では春から夏の時期。キリスト教では聖母マリアの月でもあります。豊穣と生育を願い、生命の輝きを迎える時期です。その時期に「こさえた銀のこすり傷」とは何か?Silverには硬い、澄んだという意味もあります。ちょっと間違えてこすっちゃった、のではなく、がっつりしたこすり傷ができたのでしょう。春から夏、バラが咲くころ、人生で言うと青春真っただ中、その時に傷を負うようなことがあった。望まないことがおこりダメージが生じた状態ではないでしょうか。

アメリカの5月といえば、ライラックの花を思い出します。管理人の留学先の敷地内にたくさん植えてありました。5月に暖かくなると一気に咲き始めます。通常、ライラックの花の花弁は4枚ですが、たまに5枚の花弁を持つ花があります。見つけると幸運をもたらすという言い伝えがあるそうです。5枚の花弁を友達と探して、反対側を向いて食べた(誰にも見つからないで花を食べると幸せになるらしい)思い出があります。5月の輝かしい思い出の一つです。

もう一度イントロに戻り、3つの直喩と合わせて考えてみます。わかりやすく文章化すると次のようなことではないかと思います。「隠れていたものが何かのきっかけで噴き出し、知れ渡ることになった。それはひどいダメージといっていいようなことだ」隠れ家から噴き出す月の雫→酸と油を浴びる狂人→風でてんてんばらばらになる鳥→青春時代に追う傷、とイメージの展開が見事です。管理人はこの冒頭部分の比喩からT.S.Eliotの「荒地」を思い起こします。

冒頭部の最後に、またしても、強烈なフレーズが登場します。比喩表現の連続にもやもやしたロックファンの方もいらっしゃったかもしれませんが、ご安心いただきたいです。ここで急転直下の展開を迎え、デスディノーヴァの本意が見えてきます。

And now the sands become a crust
Most of you have gone away
「今や 時の砂粒は硬く覆う表皮となり 
あなたたちの仲間は数少なくなってしまった

“And now the sands become a crust”の訳もとても迷いました。a crust を地殻と解釈する方が、地球の長い歴史を感じさせるので、その次の行との繋がりとしてはいいのかも?しかし、地殻はマグマからできた火成岩が多いく、砂→火成岩は飛躍しすぎだと思うので却下。

a crustは、通常、料理で使うパイ生地を示すときに使う単語です。a crust = 硬く覆う表皮、大きい意味で地球の地殻と捉えると、なんとなくイメージが沸いてきます。(時間をかけて人が踏みしめた)砂が固まり、皮のようになった状態でしょうか。一方、真夜中を打つ時計から曲がスタートしているように、時計=時が、この曲ではテーマの一つとなっています。そこで、この節のthe sandsは砂時計であると考え「時の砂粒」と訳しました。

最後の行”Most of you have gone away゛では、現在完了形が使われています。現在形でも過去形でもなく、完了形というのがポイントです。完了形を意識して意訳すると

デスディノーヴァ曰く「時計が十二時を打つと、それを合図に隠れていたことが表にでてくる。それは望まないようなダメージを受けるようなものだ。時間をかけて砂が踏みしめられて固まった今、Youのほとんどはいなくなって、Youの仲間は少くなってしまったんだよ。」

ほとんどがいなくなってしまった”You”とは誰を指しているのでしょうか?なんとも不吉です。歌詞を最後まで読むとYouが誰なのかわかるような構成になっています。ここでは「あなた」と2人称にして先にすすめます。

透明な音と神秘的なトーンで始まる”Astronomy”ですが、冒頭の最後で一気に恐怖小説の空気感が出てきます。螺旋階段をぐるぐるとまわると最後にとんでもない光景が見えたという感じです。冒頭から冒頭部最後までの8行に、デスディノーヴァが地球で過ごした時間、稀有な経験が凝縮されているような重みがあります。

私は”Astronomy”の歌詞カードを初めてみたとき、不思議なデジャブを感じました。どこかで読んだことあるなという感覚です。最後まで何回か読み直してわかりました。「聖書」です。「聖書」はメタファー(たとえ、たとえ話)の宝庫です。先に3つの直喩表現について触れましたが、この曲では暗喩表現も多く使われています。”moon drops burst out”歌の後半の”the origin of the storms” ” eternal light”なども暗喩表現です。

管理人が学校の聖書の授業で習ったところによると、メタファーを使うのは「聖書が汎用的であるようにするため」だそうです。人種、言語、性別、あらゆる違いを乗り越え、言葉がいきわたる様に、たとえを多数用いたと。メタファーを使うことが、一見すると回りくどいようで、実は最短距離であるという発想かなと思いました。私は”Astronomy”のメタファーにも同様の印象を持ちます。外はフィクション、中が本物。受け取り側の受け取り方によっていかようにも受け取られるという性質のものだと思うのです。Blue Öyster Cultの作品の大きな柱の一つが知的な歌詞の奥深い面白さです。しかしながら、受け取る側次第の作品は「言ってることわかりにくい」という評価にもなります。特に日本で過小評価された理由の一つはこれではないか?と管理人は考えます。

冒頭部最後の行「あなたたち(You)の仲間は数少なくなってしまった」これは、ヨハネの黙示録のこの世の終末を暗示してと捉えることも可能ですが、ここで結論を出すことは止めておきたいです。歌詞を終わりまで読むと、デスディノーヴァの訴えたいことの全貌が見えてきます。

次の節ではスージーと看護師のミスキャリーが登場します。この曲の中では、唯一、温かみがありほっとする箇所ではないでしょうか。改造人間デスディノーヴァに人間の女友達が複数いたのか!?管理人は歌詞カードを初めて見た時に、見てはいけないものを見てしまったような感覚を覚えました。。。次回も引き続きお付き合いいただければ幸いです。

管理人所有の「オカルト宣言」LP。





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