Blue Öyster Cultの『Astronomy:天文学』対訳の解説④ 地獄のような眩惑と推論、女王のように威厳のある流転。永遠なる光。

ブルー・オイスター・カルト(Blue Öyster Cult)

前回の続きです。「四方風の亭」の描写、非常に難解と思われるHellish glare and inferenceの節に言及します。

Hey! Hey! Hey! Hey!
Four winds at the Four Winds Bar
Two doors bought and windows barred
One door to let to take you in
The other one just mirrors it

「四方風の亭」に四方から風が吹く
二つのドアは人手に渡っていて 窓には閂が掛かっている
残りの一つ目のドアはあなたを招き入れる
最後のドアもそっくりそのまま同じようにする


“Two doors bought and windows barred”のboughtについて。boughtをlockedで訳している方もいらっしゃるようです。Metallicaカバーでジェームズがlockedと歌い、lockedの方が浸透しているからだと思いました。BÖCのオフィシャル音源「オカルト宣言」、ライブ盤「暗黒の饗宴」「ア・ロング・デイズ・ナイト」を聞いて確認しましたが、エリックはboughtと歌っています。ここではboughtで訳を進めます。

ドアが開かない状態を表すにはlockedの方が自然です。敢えてbought、動詞buyの過去分詞形(受け身)を用いたのはなぜか?管理人が思いついたのは以下2点です。

・bought / barredとbの韻を踏む方が良いから
・ドアが人手に渡っているために開けることができないと言いたいから(つまり、たとえ鍵が手元にあったとしても開けることはできない。ドアを買い戻さない限りは。)

lockedよりもboughtの方がドアを開けることの難易度が高い。難しさを強調する表現だと思います。

“windows barred”ではbar(バー)が動詞として使われています。ここは”Four Winds bar”で”windows barred”と掛詞のような使われ方でが面白いと思いました。barの意味は閂(かんぬき)を掛ける、出入りを禁止にするということ。2つのドアからも、窓からもFour Winds Barに出入りすることはできないとなります。Four Winds Barは立ち入り禁止なのでしょうか?

“One door to let to take you in The other one just mirrors it”

他にもドアがあるようですね。皆さまも既にお気づきだと思いますが、「四方風の亭」にはドアが4つあります。2つのドアは人手に渡り、今はどうしようもできません。残りのドアは2つ。2つのうちの1つ目ドアからは入ることができるようです。そして、最後のドアもそっくり同じようにすると歌われています。”just mirrors it”のmirrorsは動詞でそっくりそのまま映すという意味です。itは1つ目ドアを指します。そっくりそのまま真似と同じようなニュアンスの表現が次の節にもあります。”The other one’s duplicate” の部分です。同じようなものが2つあり、どちらが本物か偽物かどちらかがわからない。巧妙な欺瞞もこの曲のテーマの一つであると管理人は感じました。

次の節は「四方風の亭」から一転して、雰囲気がガラリと変わります。謎めいた言葉の連続。この歌の歌詞で一番わかりにくいと感じた箇所です。

Hellish glare and inference
The other one’s a duplicate
The Queenly flux, eternal light
Or the light that never warms
Yes, the light that never, never warms
Or the light that never

Never warms
Never warms
Never warms

地獄のような眩惑と推論
もう一つの方は複写物
女王のように威厳のある流転 永遠なる光
もしくは 決して熱を発することのない光
そう 決して、決して、熱を発することのない光だ
もしくは 決して熱を発することのない光
決して熱を発しない
決して熱を発しない
決して熱を発しない


一つ前の場面を思い出していただきたいです。デスディノーヴァがスージーに伝えていました。「四方風の亭」の時計の裏の奥の方に知の源があると。「四方風の亭」は窓に閂がかかり、4つのドアのうち2つが人手に渡っていました。知にはそう簡単に近づけないんだよ、とデスディノーヴァは言うのです。

管理人が思うに、知は智。物事を認識したり判断したりする知恵のこと。「天文学」はデスディノーヴァの目覚めの物語。デスディノーヴァが本質を見抜き正しく理解するに至った過程、心境が語られていると思います。それを踏まえてもう一度歌詞を読むと、なんとなく掴めてきました。
“Hellish glare and inference The other one’s a duplicate”
“glare”は眩しさ。きらきらしたポジティブなものではありません。不快感や物の見えづらさを生じさせるような眩惑のことです。”hellish”とあるので、光の状態が酷いグレアとなったと解釈できます。そして”inference”は推論。既知の事柄を元にして、未知の事柄について予想しながら論じる事です。あくまでも既知から導かれるものであり、そこに視点の逆転があれとしたらならば、到達点は全く違うものになるでしょう。ひどい眩惑、あくまでも推論。確固たるものがなく、もしかしたら、見誤っているかもしれない状態なのです。そんな中で”The other one’s a duplicate” もう一つの方は複写物だとデスディノーヴァは語ります。知の起源にたどりつくまでには、眩惑もあり、複写物に騙されるようなこともある。やはり、たどり着くのは簡単ではないということでしょう。「天文学」はデスディノーヴァの独白です。眩惑、推論、複写、欺瞞。デスディノーヴァの辿った道の過酷さが伺える表現だと思わずにはいられません。

“The Queenly flux”も非常に難解です。”flux”は流れ、変動。万物は流転するの流転です。”The”と大文字から始まる” Queenly”は特定の個人を指しているように一見思えました。ネットで”The Queenly flux”は、ギリシア神話に登場するエチオピアの女王カシオペアだとの考察を拝見し、とても面白く、説得力あると感心したものです。しかし、少し違うかな?とも思えました。(Sandy Pearlmanがそのように言っていたのかもしれません。そうならば、カシオペア説が適切ですね。)カシオペアは高言を吐き窮地に立たされた女性です。不幸は自業自得といえます。

一方、「天文学」はデスディノーヴァの物語です。デスディノーヴァの立場はカシオペアとは違います。デスディノーヴァはアメリカ生まれの若者で特殊能力のある人間。本当は宇宙人。レザンヴィジブルズの策略にはまり、改造人間になり悪事に手を染めるようになりました。騙されていたのです。落ち度がないので自業自得とはいえません。デスディノーヴァは騙された過去の自分を客観的に見つめているようです。宇宙人→人間→改造人間→宇宙人。この変動は確かに流転であるが、Queenly、威厳があり荘厳なもの。運命に翻弄されただけではなく、流転があったからこそ今の自分がある。デスディノーヴァの強い主張を感じ取り、「女王のように威厳のある流転」の訳に落ち着きました。

次に、2つの対照的な比喩がでてきます。”eternal light”「永遠なる光」と”the light that never warms”「決して熱を発しない光」です。曲のタイトルは「天文学」です。宇宙の星を思い浮かべてみると「決して熱を発しない光」の方はわかりやすいのでは?と思います。自ら光らない星、惑星でしょう。その筆頭格は地球の唯一の衛星で、太陽の光を跳ね返して輝く月です。曲のイントロでは月の雫が歌われており、月を指していると考えてよいでしょう。

月と地球のイメージ

一方で、「永遠なる光」はどの星を指しているのか?自ら強い光を発する星。一番明るい一等星、おおいぬ座のシリウスではないでしょうか?英語ではDog Star。その明るさをもって、古代から人間に親しまれ、人間を導いてきた星。農業、航海に従事していた人にとっては、季節の移り変わりや方位を示す重要な星でした。満ち欠けを繰り返す不安定な月とは対照的な存在なのです。曲の最後に「犬を忘れないように」「動ぜず必然的」とあります。曲のイントロで登場する月、最後に登場するシリウス。地球の衛星と明るい一等星。好対照な2つの星が際立ちながら輝く、広い空間がこの詩にはあります。「天文学」にロマンを感じるとおっしゃるカルトファンの方にお目にかかったことがあります。星の描写に無限の宇宙を感じて好きとのことでした。その気持ちよくわかる!と管理人は嬉しく思いました。

シリウスAとシリウスBのイメージ。

☆おおいぬ座のについて。「Hondaキャンプ」さんの解説がとてもわかりやすく勉強になります。シェアさせていただきます。https://www.honda.co.jp/outdoor/knowledge/constellation/picture-book/canismajor/

そして、”Or the light that never Never warms”パワフルなフレーズが繰り返されます。歌の中盤のハイライトで否が応でも耳に残る箇所です。イントロ部分のメロディが繰り返され、曲の後半に入っていきます。後半冒頭でスージーとキャリーが再登場。エンディングでは、デスディノーヴァの地球観、自らの出自、地球の行く末も暗示されています。デスディノーヴァの飼っている犬も登場します。

ここまで書き終えて改めて思いました。Blue Öyster Cultは凄まじい曲を作った。すごいバンドだと。プログレでは練りに練った知性溢れる歌詞をよくみますが、ハードロックで(元祖ヘヴィ・メタルですね!)独特な世界観が反映された「天文学」のような曲はあまりないのではないでしょうか?

あくまで管理人の主観ですが、ロックバンドの魅力はライブハウス(下北沢ロフトのような)で演奏したときに、かっこいいかどうか?につきると思います。スタジアムで7万人呼べるスーパースターバンドあっても、街のライブハウスで2階に立ってる客を満足させることができないなら、純粋はロックバンドとは言えないのでは?と。Blue Öyster Cultはライブバンド。年中ツアーに出ています。現場で鍛えられた筋金入りのロックバンドなのです。Thinking Man’s Heavy Metalという称号を与えられてはいても、複雑な楽曲と知的な歌詞だけがセールスポイントではありません。多彩な楽曲。独特な世界観を反映した知的な歌詞。そして、あくまで現場でノリ一発の勝負。このミスマッチが面白いのです。

日本では伝わりきれていない彼らの魅力を伝えたいがために、正解がないものについて、自分の思いを勝手に書かせていただいております。「天文学」では、デスディノーヴァがレザンヴィジブルズでの自分の立場を、惑星を引き合いに出して説明しているという解釈もあります。それも正しいと思います。すべての解釈が正しく素晴らしいです!お読みいただきありがとうございます。引き続きお付き合いいただけば幸いです。


2021年11月にカリフォルニア州の Solana Beachの Belly Up Tavernで行われたライブ映像。2020年にリリースされた”The Symbol Remains”に収録された”The Alchemist”の演奏です。カルトらしさ満載ながらもモダンなトーンの曲でファンにはとても人気があります。場内は大変盛り上がってる様子。Eric Bloomは錬金術師を演じながら歌い、Buck Darmaは後半のりのりでギターを弾きまくっています。有名ベテランのバンドの場合、新しいことにチャレンジしないことが最良であるという見方もあるのですが(新しいことが従来のファンに全く受け入れられないリスクもあるので)Blue Öyster Cultは守りにはいる気持ちはさらさらないようです。70代のベテランロックミュージシャンの尖がった姿。かっこいいですね☆
https://www.youtube.com/watch?v=vrjJtV1oZqI



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