Blue Öyster Cultの『Flaming Telepaths:地獄の炎』解説① Japanese translation and my thoughts about “Flaming Telepaths” 失敗続きの錬金術師の生きざま。視点の逆転でわかる鉄板ジョークのネタ。

ブルー・オイスター・カルトについて

前回は『Flaming Telepaths:地獄の炎』の対訳を載せました。解説しながら自分なりの考えを述べていきます。

この曲の歌詞を手掛けたのはSandy Pearlmanと伝えられ、私も長い間そう理解していました。が、実際のところは、SandyとドラマーのAlbert Bouchardの共同制作だったようです。Martin Popoff著『Agent of Fortune The Blue Öyster Cult Story』の49ページでAlbertが語っています。管理人は『地獄の炎』の歌詞のトーンが初期の他の曲と少し違うと感じおりまして、Albertが手掛けたものであると知り、なるほどと合点がいきました。

『地獄の炎』の楽曲は秀逸です。”Harvester of Eyes”→『地獄の炎』→『天文学』のつなぎ方では画期的な試みがみられます。見事としか言いようがありません。”Harvester of Eyes”のエンディングでは、オルゴール調のワルツのようなピアノ曲が流れます。ワルツが静まると次の曲『地獄の炎』の冒頭部に突入。激しいドラム、ピアノ&シンセサイザーが鳴りだします。ドラム、ピアノ、シンセが絡み合う複雑なトーンで『地獄の炎』は幕をきるのです。オルゴールのとってつけたような牧歌的なワルツから、突然始まる複雑かつパワフルなピアノとシンセとドラム。この落差がすごいのです。錬金術師の苦悩、悲劇性を高める効果のある音作りだと思います。このような曲のつなぎはロックの歴史でも非常にレアです。オリジナリティを追求し楽曲に妥協しないBlue Öyster Cultの姿勢がうかがえますね。

次に、歌詞をみていきましょう。この曲の主人公は名前のない錬金術師です。自分の体を使って人体実験を行い、トランスフォーメーションを試みています。Sandy Pearlmanによると主人公の錬金術師は「理由なんかない。やりたいからやってるだけ。プライドのためにやってる。」とのこと。実験に憑りつかれた自分を止めることができないのです。歌詞を初めて読んだときに私は感じました。「認めたくないけど・・この人自分にそっくりじゃん」と。自分の好ましくない内面性がデフォルメされ煮詰まりペルソナ設定されたようで身震いがしました。

Well I’ve opened up my veins too many times
And the poisons in my heart and in my mind
Poisons in my bloodstream
Poisons in my pride
I’m after rebellion
I’ll settle for lies
Is it any wonder that my mind’s on fire 
Imprisoned by the thoughts of what to do
Is it any wonder that my joke’s an iron

And the jokes’ on you

そうだね わたしは静脈を何度も何度も開いてしまったんだ
そしてわたしの心も頭脳も毒されている
わたしの血流の中に毒がある
わたしの誇りの中に毒がある
わたしは反乱が終わってから追いかける人間だ

嘘でごまかそうとするだろう
わたしの理性が燃えていることになんの疑念があろうか
すべきことへの思索に囚われている
わたしの冗談がテッパンであることに不思議はない
そして 揶揄われているのはあなただよ

錬金術師は万能とは程遠い人物のようです。人体実験を繰り返していますが成果は上がっていない。静脈に得体の知れないものを入れ、脳も毒されている。まさに、毒にまみれた生活のようです。ここで注目すべきは錬金術師のパーソナリティです。崇高な目標を掲げ誇り高く人体実験に挑んでいますが、垣間見れる性格は日和見主義(=I’m after rebellion)嘘でごまかす(=I’ll settle for lies)すべきことに囚われ本質から逃げる(=Imprisoned by the thoughts of what to do)とで散々です。錬金術師はスーパーマンではなく、よくいるタイプのメンタル弱めな人間として描かれています。トランスフォーメーション実験の壮大さと人間臭さの描写に落差があり、皮肉な見方をすれば、ペーソス溢れる人情劇のようでもあります。

それを踏まえて1節目の最後の2行をみてみます。

Is it any wonder that my joke’s an iron
And the jokes’ on you

錬金術師の生きざまが描かれた後、唐突に「冗談について」が。突拍子のなさが故にとても理解しにくいのですが、『地獄の炎』『天文学』をより深く味わうためには避けて通れない部分です。丁寧に考えていきたいと思います。ここでは、あなたが登場します。私とあなたは誰のことを指しているのか?真っ先に思いつくのは、私:デスディノーヴァとレザンヴィジブル、あなた:地球人です。これはカルトのファンの間でも知られた通説のようです。

『地獄の炎』はイマジノス直下のストーリーではありませんが、管理人は『イマジノス』の関連作品だと捉えています。『地獄の炎』『天文学』が一つの作品のように仕上がっているためです。とすると『地獄の炎』の背景には、デスディノーヴァ、レザンヴィジブル、地球人の絡み合った関係があると言えます。私たちはもう一度、デスディノーヴァの物語に戻る必要があります。

デスディノーヴァ(exイマジノス)はレザンヴィジブルの策略で人間から改造人間への生まれ変わりました。レザンヴィジブル配下で第一次世界大戦の勃発を画策し、地球人を破滅へと追いやろうと暗躍。この点から、揶揄われているのは人間、揶揄っているのがデスディノーヴァとレザンヴィジブルのチームとなるのでしょう。『天文学』でデスディノーヴァが地球を忌々しく思う独白もあり、信ぴょう性が高いですね。

しかし、私にはどうしても納得がいかない点がありました。なぜ、敢えて、技術も人柄もダメダメな錬金術師を登場させたのか?わからないのです。地球人をコケにするならば、万能感があるイケイケ錬金術師を登場させ、どや、ありがたく見てみいと派手にトランスフォーメーションして見せればいい。ダメダメ錬金術師が地球人を揶揄ってるって。負け犬の遠吠えのようで、ちょっと趣旨がわかりません。

ここで管理人が試みたのは『天文学』の解説で触れた“視点の逆転”です。ふと思いました。揶揄われているのが地球人という前提を取っ払らい、視点を逆転させてみたらどうか?すると、見えてきたのです。揶揄われているのは地球人ではなく錬金術師かもしれない。そうであれば、揶揄われている錬金術師はそもそも何者だ?『イマジノス』で錬金術師でてきたっけ?あ、あああ、そうだ。そうです。一人いました。盲点でした。デスディノーヴァです。デスディノーヴァは人造人間になり、様々な人体実験をやっているという設定でした。読者の皆さま、ここは驚いて椅子から滑り落ちるところです。世界が逆転しました。バカにされていたのは地球人ではなくデスディノーヴァだったのです。

the jokes’ on youのyouがデスディノーヴァだとすると、my jokeの主も変わりますね『天文学』の記事をお読みになった読者さまは、そうそうと頷いていらっしゃるはずです。my jokeの主はレザンヴィジブルです。『天文学』で明かされたデスディノーヴァの出自。地球生まれの青年デスディノーヴァは、レザンヴィジブルにうまく騙され改造人間になり、地球滅亡のために動いているのです。が、元々、デスディノーヴァは宇宙人でした。レザンヴィジブルによって地球に遣わさた存在だったのです。自分の思いのままに動くデスディノーヴァが人体実験に失敗し苦悩する様子を、レザンヴィジブルズは遠巻きに笑っています。デスディノーヴァに向かって「わたしの冗談がテッパンであることに不思議はない そして揶揄われているのはあなただよ」と。嘲るではなく揶揄うです。まあさ、あれもこれも冗談みたいなもんだよとレザンヴィジブルは言いたいのでしょう。デスディノーヴァの人生を弄んだ挙句に、こんなのはほんのジョークだぜ!でも俺らの鉄板ネタだけどw!と。曲を支配する悲劇的なトーンの裏には、デスディノーヴァが陥った壮大な欺瞞があると感じます。地球人が揶揄われていると思いきや、揶揄われているのは地球人を揶揄っていると思われていたデスディノーヴァだった。2重の欺瞞です。

いわゆる通説
the joke’s on you のyouは地球人、my jokeの主はレザンヴィジブルとデスディノーヴァのチーム= 愚かしい地球人をレザンヴィジブルとデスディノーヴァが揶揄っている

管理人の考え
the joke’s on you のyouはデスディノーヴァ、my jokeの主はレザンヴィジブル=
愚かしいデスディノーヴァをレザンヴィジブルが揶揄っている

背景
地球人の旅好きな青年デスディノーヴァは本当は宇宙人。レザンヴィジブルが地球に遣わしていた。死の淵に立ったときにレザンヴィジブルの提案で(自分は宇宙人だったことを知らされずに)改造人間として生きる道を選ぶ。改造人間の人体実験は上手くいかず、デスディノーヴァの体はボロボロになっている。レザンヴィジブル配下では邪悪に身を染め、第一次世界大戦勃発に暗躍した。

これ全部をレザンヴィジブルはジョークだよ!と言ってます。しかも、俺たちのテッパンネタだと。

ここで大笑いできるのか?管理人はできません。この冗談は笑えませんよね。デスディノーヴァがあまりにも気の毒。しかし、デスディノーヴァの物語はこのままでは終わりません!次回は歌詞の後半の展開についてと『地獄の炎』の日本盤EPのご紹介もする予定です。引き続きお付き合いいただければ幸いです。






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