前回の投稿記事、Blue Öyster Cultの『5月の最後の日』対訳について解説します。
(イントロ ギター)
1-1
Parched land, no desert sand
The sun is just a little dot
And a little bit of water goes a long way
‘cause It’s hot It’s hot
Three good buddies of mine were laughin’ and smokin’
In the back of a rented Ford
They couldn’t know they weren’t going far
乾いた大地、砂漠の砂もない
太陽は小さな点のように見える
少しの水が長い道のりを流れていく
なんたってここは熱い 熱いんだ
3人の相棒はレンタカーのフォードの荷台に乗って
笑ってタバコをふかしてた
遠くにはいかないなんて 彼らは知り得なかった
1-2
Each one with the money in his pocket
To go out and buy himself a brand new car
But they all held the money they had
Money they hoped would take them very far
それぞれがポケットに金をつめこんで
出張って自分の新車を買おうって寸法だ
みんな有り金をがっちり持ってきた
かなり遠くまで行こうとあてにしてたんだ
(間奏)
2-1
Sky’s bright, the traffic light
Now and then a truck
And they hadn’t seen a cop around all day
what luck
They brought everything they needed
Bags and scales to weigh the stuff
The driver said, “The border’s just over the bluff”
空は明るく 道はすいていた
たまにトラックが通り過ぎただけだ
一日中警官一人見ることはなかった
なんて幸運なんだ!
必要なものは全部もってきた
袋とそしてブツを計るやつとか
運転手が言った「国境はちょうどあの崖の向こうだよ」
(ギターソロ)
2-2
Wasn’t until the car suddenly stopped
In the middle of a cold and barren plain
And the other guy turned and spilled
Three boys blood did they know a trap had been laid?
寒々とした荒れた空間の真ん中で
車が突然止まるまでは何もなかったのに
運転手が振り向き 3人の少年達の血がこぼれ出た
罠が仕掛けられていたことに彼らは気づいたのだろうか?
(ギターソロ)
3
They’re OK the last days of May
But I’ll be breathin’ dry air
I’m leaving soon
The others are already all there
Wouldn’t be interested in coming along
Instead of staying here?
It’s said the West is nice this time of year
That’s what they say
5月最後の日々 まあまあだよ
でも、生き残った俺は乾いた空気を胸いっぱいに吸い込み
まもなくここから離れようと思う
あの2人はもうあっちにいるんだ
ここに留まるよりも一緒に行くほうがいいんじゃないの?
西部はこの季節過ごしやすいそうだよ
そうあいつらは言うんだよ
(ギターソロ)
バック・ダーマのスタイル
作詞、作曲を手掛けたのはバック・ダーマことDonald Roeser。私は、最初に曲を聞いたときに不思議な感覚を持ちました。「切ない。でも、情に訴えるウェットなものではない。あっさりしている語り部」という印象でした。バック・ダーマのギターはBlues調に聞こえますが、Bluesではない。淡々と演奏が進みます。バック・ダーマが手掛けた本作も乾いた音の曲です。そして、特筆すべきは、カルトが得意とする都会的な世界と対極にあるということでしょう。土の上には人々の営みがあり歴史があります。史実を語り部のように歌とギターで紡いでいく。土を感じるが洗練された雰囲気。このスタイルはバック・ダーマの十八番です。1998年にリリースされた”Heaven Forbid”に収録された名曲”Harvest Moon”でも同様の手法がとられています。史実に基づくものではないですが、淡々と情景描写が進む中で際立つ華やかなギターという点では”Mirrors”に収録されている”The vigil”もバック・ダーマらしさを存分に感じる曲です。
アリゾナで起こった悲劇
この曲が実際に起こった悲劇を題材としていることはカルトファンに広く知られています。事件に巻き込まれたのはバック・ダーマの知り合いだったと伝えられています。管理人がBÖCの教科書としているJacob Holm-Lupo氏の”on track..Blue Öyster Cult every album, every song”に事件のあらましと曲との関連性が次のように書かれています。
“Three Long Island kids went on a dope-buying expedition in Arizona that ended tragically, with two of them shot to death. While the song is mellow and laid-back, it conveys all the melancholy and loneliness of the desolate Arizona landscape (‘parched land, no desert sand /the sun is just a dot’), while the guitar solo draws the dramatic arc and play out tragedy. “(Martin Popoff, 2016, p.12)
「ロングアイランド出身の3人の子どもたちが、麻薬売買のためにアリゾナに遠征したが、2名が銃殺される悲劇に終わった。成熟した穏やかな雰囲気があるが、荒涼としたアリゾナの景観(‘parched land, no desert sand /the sun is just a dot’)のすべてのメランコリーと寂しさを聞き手に感じさせる曲だ。一方でギターソロはドラマティックな弧を描き、悲劇を演じ切っている」(管理人訳)
静と静と動、陽と影、相対するものを際立てるような曲作りです。淡々と進む曲の中、対照的な絵が浮かび上がります。
<静> アリゾナの景観 VS <動> 動く車
<陽> 明るい陽射、少年達の無邪気さ VS <陰> 惨劇そのもの
そこにドラマティックなギターソロが展開されるのです。個人的な見解ですが、バック・ダーマのギターソロは昭和の少女漫画のようだと思います。劇的な展開で10ページ後には主人公がどうなってるかわからない、でも、きちんと終結に向かう。ギターソロ後では違う世界が待っている。本当にゴージャスですね。
ネタバレ 犯人は○○○だった!
登場人物は3人の少年と運転手。先にネタを明かします。犯人は運転手です。
1-1 アリゾナの荒涼とした光景。フォードのレンタカーの荷台で3人の少年達の無邪気な様子。これから起きる惨劇の予兆すら感じさせない→2-2での場面の急転直下が際立つ。
1-2 少年達の計画あらまし。大儲けをしてそれぞれが新車を買う。金があれば新車を買って遠くに行ける(=金さえあれば己が所属する社会から簡単に脱出することができる)と少年達は信じている。少年達がまだ幼く、思慮がない様子が伺える→2-2での場面の急転直下、仕掛られていた罠につながる。
2-1 場面が進む。少年達の計画、ドラッグの取引が明かされる。運転手登場でセリフ「国境はちょうどあの崖の向こうだよ」ドラッグの取引は国境近辺で行われるようだ。警察がいなくてラッキー→2-2で皮肉だとわかる。
2-2 !!場面が急変!! 突然車が止まる。あいつ(the other guy)、もう一人の登場人物=運転手が振り向き少年達に襲い掛かる。少年達を陥れるための罠が仕掛けられていたとここで明らかになる。運転手は子どもたちを騙して、人里離れたアリゾナの国境エリアで金を奪い殺害するつもりだったのだ。
3 1-1から2-2は第三者の語りだが、3は生き残った1名の少年の独白。あいつら(the others)はもうあっちにいる。元相棒たちは他界し、俺(I)だけが生き残ったとここで明らかになる。元相棒たちは、あの世から「一緒にくるほうがいいんじゃないの」「西部はこの時期過ごしやすい」と誘っている。曲の終わりのギターソロには、センチメントにガシガシと訴えてきて心を揺さぶるようなフィーリングがある。生存者の少年もあまり遠くない未来に”あっち”に行くのかなあと管理人はその後の世界をも想像する。
3分半ほどの長さですが、長編映画を見終わったような感覚を味わうことができる曲です。節々に入るバック・ダーマのギターソロが、場面場面の橋渡しをして、最後のギターソロで幕が降りるようです。デビュー盤に収録された曲ですが、バック・ダーマは若くしてギター巧者の風格があったのですね。いわゆるギターヒーロータイプのギタリストではない。でも、バック・ダーマことDonald Roeserはもっともっと評価されていいギタリストだと管理人は強く思います。バック・ダーマの紡ぎだす世界は『死神』だけではありません!!
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。次回はサバス的なカルトの名曲について語りたいと思います。
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