Blue Öyster Cultの『Astronomy:天文学』対訳についての解説① イマジノスについて。そもそも、いったいどういうキャラなの? 

ブルー・オイスター・カルト(Blue Öyster Cult)

前回にお伝えした『Astronomy:天文学』対訳の解説です。複数回に分けて説明いたします。“Astronomy”を理解するには、その大元である”The Soft Doctrines of Imaginos”への言及が不可欠です。少し遠回りになりますが、ぜひお付き合いいただければと思います。

“The Soft Doctrines of Imaginos” 「イマジノスの柔軟な教理」

(1)”The Soft Doctrines of Imaginos” 「イマジノスの柔軟な教理」 はSandy Pearlman作の詩。
イマジノスはその主人公

バンドのプロデューサーであり哲学者であり詩人でもあった若きSandy Pearlman。彼はH.P.Lovecraft(怪奇小説・幻想小説のパイオニア的存在。一連の小説がCthulhu Mythos「クトゥルフ神話」と体系化されている。後続者に絶大な影響を与えた。)に傾倒していました。その影響下で作られた詩が”The Soft Doctrines of Imaginos” 「イマジノスの柔軟な教理」 です。Sandyが起こした「イマジノスの柔軟な教理」を音楽化しようとした活動に賛同したのがドラムのAlbert Buchard。これが BÖCの前身バンドの始まりです。その後改名を経て、1971年にBlue Öyster Cultがスタートします。最初の2作、1972年リリースの “Blue Öyster Cult” 「狂気への誘い」と1973年の “Tyranny And Mutation” 「暴虐と変異」では「イマジノスの柔軟な教理」がダイレクトに楽曲に反映されることはありませんでした。

3作目の”Secret Treaties”「オカルト宣言」で「イマジノスの柔軟な教理」の片鱗が見え始めます。一曲目の”Subhuman”「人間そっくり」と最後の曲”Astronomy”「天文学」そして、イマジノス詩作下にはないと言われていますが、管理人がイマジノス詩作下的な作品として切り離すことができないと考えてる”Flaming Telepaths”「地獄の炎」です。「地獄の炎」は「天文学」の一つ前に収録されています。物語のつながり的な面だけではなく、楽曲としてもセットで聞くべきだと私は思います。二つの曲のつながりがとても斬新なのです。アルバムの最大の見せ場であるといっても過言ではありません。

管理人所有のLP盤「オカルト宣言」のジャケット裏の一部。曲順がでています。B面の3曲目”Flaming Telepaths”、4曲目”Astronomy”と続きます。3曲目の終わり方、つなぎ、4曲目の始まり方がドラマチックで斬新。通して聞くことを想定して作られた曲だと感じます。

(2)「イマジノスの柔軟な教理」あらすじ:主人公イマジノスのデスディノーヴァへの生まれ変わり
常に複雑な物語です。管理人が知っているイマジノスについてを以下にまとめました。

・前提にクトゥルフ神話がある。クトゥルフ神話は原始からの地球の年代記。太古の神々との戦いで敗れた邪悪な者達、地球の旧支配者である異形の者達が、現代に蘇ることをテーマとしてる。
・イマジノスはニューハンプシャー州生まれの若者。Modified-child(変異させられた子ども)であった。想像したものがそのまま現実化する特異能力を有する。地球を気ままに旅しながら過ごしていたが、ある日メキシコ湾で遭難し生死を彷徨う。その時に現れたのが、地球外生命体であったレザンヴィジブルズ(Les Invisibles=見えざる者、エイリアン)であった。レザンヴィジブルズはイマジノスに奇妙な取引を持ち掛けた。このまま人間として溺死するか、もしくは宿命を受け入れエイリアンの仲間になるか、どちらかを選ぶように提案してきた。イマジノスはエイリアンの仲間となることを選択。デスディノーヴァ(Desdinova)に生まれ変わり、改造人間として生き続ける。
・デスディノーヴァはクトゥルフ神話の地球の旧支配者である異形の者達から、星からの叡智を学んだらしい。(Sandy Pearlmanはラブクラフトが使っていたStarry Wisdom=星からの叡智という表現を気に入って、自身も作品で使用。)
・レザンヴィジブルズは名の通り見えざるもの。常に現象、惨事の背後にいた。実働部隊がデスディノーヴァ。彼は地球の歴史上の重要な局面で暗躍し、地球人を破滅へと導いていく。
・デスディノーヴァはユカタン半島の寺院の出口のない翡翠の部屋から「完全なる暗黒の菌」を盗み出し、その菌がヨーロッパに持ち込まれ、人々の心理にネガティブに作用していく。これが第一次世界大戦の発端となった。

(3)イマジノスの秘密。気づき、覚醒の物語が”Astronomy”
ここまでが日本語に翻訳されて伝わってきたイマジノスの話です。しかし、これだけでは”Astronomy”の歌詞が理解できません。”Astronomy”の一つ前の曲”Flaming Telepaths”と1988年にリリースされたアルバム”IMAGINOS”をしっかり聞きここむと、イマジノスの出生の秘密がみえてきます。イマジノスの人生には大きな欺瞞があったのです。

☆イマジノスの秘密☆
・イマジノスは、宇宙で生まれたエイリアンであり、そもそも人間ではなかった。
・レザンヴィジブルズ は、地球人をからかう邪悪なゲームをするような感覚で、宇宙人イマジノスを19世紀の地球に送り込んでいた。
・地球人としてのイマジノスが溺死するときに「君は本当は宇宙人で仲間だ。助けてあげる」とレザンヴィジブルズは言わなかった。「人間で生まれた君が本当の役割を受け入れ、自分達の仲間に加わり働く意思があるなら、危機から救う」と取引を持ち掛けた。イマジノスは自分が宇宙生まれのエイリアンであることは到底知りえず、取引に応じ、改造人間デスディノーヴァとなる。つまり、レザンヴィジブルズはイマジノス=デスディノーヴァを騙し、利己的な欲望のために利用してきたのだ。

そして、以下が、管理人がたどりつた答えです。
・デスディノーヴァは改造人間として暗躍し数々の事件、悲劇を引き起こす。デスディノーヴァには絶大な邪悪な悪の能力があったと思われる。一方で、実験を試みているさまをうたった”Flaming Telepaths”で語られる無名の錬金術師の姿は、改造人間でありシェイプリフティングを行うデスディノーヴァの姿とだぶる。歌詞の”And the joke’s on You” の Youが、人間ではなくデスディノーヴァだとすると、見えてくる世界がガラリと変わる。”Flaming Telepaths”では名前がまだ明らかになってないマッド・サイエンティストはデスディノーヴァ本人だと考えていいと思う。”Flaming Telepaths”の楽曲と歌詞のトーンは、”Astronomy”で醸し出されているデスディノーヴァの万能感とは対極にある。数々の失敗、あせり、人間らしい悩み、やるせなさがストレートに描かれ、デスディノーヴァの日常が決して愉快なだけではなかったと推察できる。
・何かのきっかけで注:このきっかけは詩に描写されておらず、私が今までに目を通したバンドの記事でも言及されていませんでした。管理人なりの推測はあります。追って別の記事で語ります。デスディノーヴァは自身の出自を知る。デスディノーヴァが事実を知り、受け入れ、さだめを悟った気づきのプロセス、覚醒。そして、覚醒からの再スタートの物語”Astronomy”である。

アルバム”IMAGINOS”のB面に収録されている”Blue Öyster Cult”で、絶命の淵に立った時に、レザンヴィジブルズ組織下で働くことを選択したイマジノスの心境が端的に描かれています。イマジノスは嬉々として改造人間になったのではなく、死の淵にたちそうせざるを得なかったのでしょう。

“Just to join the Oyster Cult
The Blue Oyster Cult”


イマジノスはそもそも人間ではありません。改造人間として歴史上の事件の裏で暗躍する宿命もなかったわけです。レザンヴィジブルズが仕組んだ壮大な嘘。陰謀というよりは「邪な悪ふざけ」の一環。Sandy Pearlmanは「地球人を使ってレザンヴィジブルズ達がゲームをするようなもの」と語っていたことが、管理人には強く印象に残りました。陰謀論みたいな高尚なものではなく、イマジノスも私たち地球人もレザンヴィジブルズの遊びに巻き込まれ、付き合わされていただけか、と。

出生に関する事実を知ったときにイマジノスが何を思ったのか。平々凡々な地球人である私には知る由もないのですが、劇的な意識の転覆だったことは想像できます。例えば、外側からみていたものを内側から見るような感じでしょうか。物体そのものは変わらないのですが、内側からと外側からでは見える世界が全く違うのです。意識の転覆には数万年かかるときもあるかもしれない。一方、3秒で起こることもあるかもしれない。イマジノスの場合はどうだったのでしょうか?管理人は、イマジノスの境遇、宇宙人仲間に騙され利用されたことに幾ばくかの憐憫の念を禁じえません。

覚醒は文字通り目覚めることです。背中に稲妻が走るような衝撃を受けることではないと思います。イマジノスが眠りの(=気づいていない)状態から目覚め起きて、そしてまた新しい物語が始まる。それが”Astronomy”。地球人が滅亡の道へと歩んでいるような描写もあり黙示録的な要素もあるのですが、あくまでも、”Astronomy”はイマジノスの独白にすぎないと管理人は感じます。作者のSandy Pearlmanが2016年に他界されており、今となってはご本人に歌詞について伺うことはできません。私の主観的な思いをなるべく客観的にお伝えさせていただきました。因みに、管理人は子どもの頃、一時期Metallicaが大好きでした。ベースのクリフ・バートンに憧れて、ラブクラフトに傾倒していた時期がありました。国書刊行会から出版されたラブクラフト関連本はすべて読み、留学先で原書を読むこともありました。が、ある日、突然、意識の転覆が起こりました。恐怖の源は自分の内なる意識にあり、それが外界に反映されているだけだと気づいたのです。その後、ラブクラフトの本を読むことは全くなくなりました。ブログを書くにあたり、もう一度ラブクラフトの系統など調べまてみたものの、気持ちは変わりません。必要に応じて触れましたが、クトゥルフ神話自体について詳しく述べることはございません。ご理解いただけますと幸いです。

ここに至るまでに管理人が目を通した本とCDライナー等の中で、特に興味深く、面白いと感じたものをご紹介いたします。イマジノスについての理解を深めたい方はぜひ手にとってくださればと思います。


「Blue Öyster Cult every album, every song」 by Jacob Holm-Lupo
前にも紹介したカルトの作品についての解説本。アルバム”IMAGINOS”の章で、ニューイングランド地方の歴史、恐怖小説が広まった理由について深く言及、それを踏まえた上で詩「イマジノス」について解説されます。情報量が多く示唆にも富み、素晴らしい内容です。

CDライナーノーツ
1998年リリース アルバム”IMAGINOS”のCDライナーノーツ。月刊BURRN!誌の編集長、広瀬和生氏が手掛けものです。通り一遍の”醒めた狂気””オカルトバンド”解説ではなく、 クトゥルフ神話と詩「イマジノス」を絡め、”Astoronomy”の位置づけの解説も独自の見解が書かれていました。流石!と管理人は感服いたしました。

Jacob Holm-Lupo 氏が手掛けたBlue Öyster Cultの作品毎の解説本。”Secret Treaties”の”Astronomy”、”IMAGINOS”についても興味深い考察を述べられている。とても面白い本。

次回以降は、”Astoronomy”の和訳について、自分なりの解釈をお伝えしていきます。引き続きよろしくお願いいたします。





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