前回の続きです。デスディノーヴァ、スージー、キャリーが登場します。8行の最初と最後ではまったく見えてる世界が違うような、スケール感のある奥深さを感じさせるものです。
Come Susie dear, let’s take a walk
Just out there upon the beach
I know you’ll soon be married
And you’ll want to know where winds come from
Well it’s never said at all
On that map that Carrie reads
Behind the clock back there you know
At the Four Winds Bar
スージーこっちへおいで その辺を散歩しよう
あそこの砂浜の上あたりまで
もうすぐ結婚することは知ってるよ
風がどこから来るのか知りたいんだね
キャリーがみている地図にはまったく書かれていないんだ
時計の裏側の隠れたところだよ
ほら あの「四方風の亭」の
気になるのは、突然登場するスージーとキャリーという二人の女性です。デスディノーヴァとどういう関係なのでしょうか?まず、スージーについてです。ファンの方はよくご存じだと思いますすが、スージー(Susie, Suzy)はBÖCの複数の曲にもでてきます。同じ名前ですが、その都度、スージーの立ち位置が違います。
<スージーが登場する曲>
“Before the Kiss, a Redcap”
“Dominance and Submission”
“Astronomy”
“The Marshall Plan”
例えば、”The Marshall Plan”では、スージーはやかましいロックが好きな若い女性であり、”Astronomy”では、知的好奇心旺盛な結婚直前の女性。同一人物であると考えるには無理があります。名前が同じだが、別人格の女性と考えたほうが妥当でしょう。
デスディノーヴァはスージーに「その辺を散歩しよう」と声をかけ、「もうすぐ結婚することは知っているよ」と言います。BÖCの曲を聞いて面食らうことが度々ありましたが、中でもこの場面は衝撃的でした。
デスディノーヴァは結婚前の女性に「もうすぐ結婚するんだよね」と話しかけているのです。これではまるで、同じ聖歌隊に属してた幼馴染とかバイト先で知り合った趣味の友達の会話みたいではないですか。デスディノーヴァは元IMAGINOSの改造人間で、レザンヴィジブルズの手下で世界大戦のきっかけを作った悪いやつじゃなかった?デスディノーヴァはふつうの人間として(の仮面もかぶり)私たちのように普通に生活をしていたのか?!デスディノーヴァは〇〇である、と簡単に断定することはできない、私は二元論でデスディノーヴァを語ることの不可能さをまたしても痛感しました。
一方、キャリーについては職業が判明しています。後半に”Miss Carrie nurse”と書かれています。未婚の看護師でしょう。スージーについては、デスディノーヴァの雇っていた看護師だろうという説をネットで見ました。おそらくそうだろうと思います。「天文学」の一つ前の曲、「地獄の炎」の錬金術師がデスディノーヴァだとすると、デスディノーヴァは看護師を雇う必要があったはずだと推測できるからです。人体実験を繰り返し失敗ばかりしていたデスディノーヴァの手当をする看護師キャリー。ドラマチックだと思います。しかしながら、今までに私はバンドのメンバーとSandy Peralmanの言葉でキャリーがデスディノーヴァの看護をしていたと語られているのを見たことがありません。確証が持てないのでここでは、女友達としました。
管理人は、当初、この場面を想像するのは難しいと感じました。スージー、キャリー、デスディノーヴァの距離感、人間関係が全くつかめなかったからです。ヒントになったのは、大人になってから繰り返し聞いた”IMAGINOS”に収められている「天文学」です。前にも申し上げましたが、IMAGINOSの「天文学」は爽やかで軽やか。若々しい印象を受けます。Sandy PearlmanがIMAGINOSについて「デスディノーヴァはニューハンプシャーで生まれた若者で」と語っていました。とするならば、デスディノーヴァ、スージー、キャリー3者はふうつの若者なのか?と閃きました。3者が友人同士だと想定すると、砂浜での会話はデスディノーヴァの神秘の説法ではなく、若者達のおしゃべり。3人の様子がリアルに生き生きとしたものに感じられるようになったのです。
“And you’ll want to know where winds come from”
ここでは未来形が使われています。スージーは風がどこから来るのかを知りたがるだろうとなりますが、結婚するというが極めて近い未来(=決まっている事)と絡めて書かれているため、現在形で訳しました。ところで、なぜスージーは風がどこから来るのかを知りたがっているのでしょうか?風は何を意味しているのでしょうか。
風は何を意味するのか?
ここで着目したいのが、「天文学」で使われている数字四です。
四つの季節、春夏秋冬。
四つの方位、東西南北。
大相撲の土俵の吊屋根の四隅(四方)には、青、白、赤、黒の房が下げられています。
四つを持って完成、安定としているのです。
そして、忘れてはならないのは西洋占星術のエレメント 四区分、火、地、風、水です。そもそも曲のタイトルが「天文学」というぐらいですから、星座や天体のことを避けては通れないでしょう。西洋占星術では風は知識、コミュニケーション、知性、客観性、理論を象徴します。風の星座は双子座、天秤座、水瓶座。とっさの判断で、情ではなく頭を使うタイプと言われています。
スージーは風がどこから来るかを知りたい、つまり「知の起源を知りたい」とデスディノーヴァに訴えています。結婚する直前の女性の壮大な好奇心です。スージーの問いに対してのデスディノーヴァはどのように答えたのでしょうか?
Well it’s never said at all
On that map that Carrie reads
Behind the clock back there you know
At the Four Winds Bar
キャリーがみている地図にはまったく書かれていないんだ
時計の裏側の隠れたところだよ
ほら あの「四方風の亭」の
キャリーとスージーは地図を見て風がどこから来るかを知ろうとしてますが、デスディノーヴァは、それ違うよと言っています。地図を見るという行為は、その場所に最短距離で行きたいという心理、合理性です。でも、デスディノーヴァは違うと。では、風の起源はどこにあるのか?
“時計の裏側の隠れたところだよ
ほら あの「四方風の亭」の”
Four Winds Barの訳は大変迷った結果、西洋占星術の四元素、四方位を思い、文字通り「四方から風が吹く酒場(亭)」としました。四方から風が吹きつける場所が何を意味するのか?難しいですね。考えた末にたどりついたのは、私たちが人間が住む場所には四方から風が吹くので(貿易風などの特徴のある場所もありますが、原則、四方から風はくる)この地球を表す。Four Winds Barは四つのエレメントがあり、四方風がふく場所である地球だと思います。
Barは所謂、バー、酒場と閂(かんぬき)が掛詞になっているようです。この次の節に「窓には閂がかかっている」というフレーズがあります。Barは妨害するという意味もあるので、妨害されて簡単にたどりつけないというニュアンスも感じます。
デスディノーヴァ曰く
知の起源を知りたい?地球じゃないの?妨害だらけだけど。
デスディノーヴァが言う「時計の裏側の隠れたところ」について、勘のいい読者様にはおわかりと思います。当ブログのタイトルはBehind the clock back「時計の裏側の隠れたところ」なのです。こちらを元に決めさせていただきました。
時計の裏側Behind the clockは、時計であって時計の役割を果たさない、つまり時間の制限を受けない、時空を超えている。時間の概念を超えたところでしょうか。そしてさらにbackとあるので、さらに隠れたところです。ここまでいくと、そこに普通の地球人がたどり着くのはほぼ無理でしょう?という気もします。
デスディノーヴァ曰く
地球上で、時間の概念を超えた、さらにその隠れたところに知の起源がある。
妨害だらけだから人間は簡単にたどり着かないと思うけど。
このような解釈に落ち着きました。
あくまで解釈なので、正しいかどうかはわかりません。時計の裏の隠れたところは時空を超えているので、正誤の概念すらそこにはないのでは?と管理人は思います。
一を聞いて十を知るのが聡明さだと言われておりますが、昨今の世相を反映した事件をみると、一を聞いて十を知りまた一に戻るのが聡明さではないか?と思うようになりました。デスディノーヴァの言うとおり、簡単に知などわかることなんかできず、宇宙の理はわからず、苦労してわかったらまた一に戻っていく。「天文学」はデスディノーヴァの悟りと再生と申し上げた過程も同じイメージです。
そもそも、この会話がなぜ浜辺で行われていたのか?海水、四方風の亭、浜辺の砂、つまり四元素的には水(情)、風(知)、土(感覚)が交わるところと考えることもできます。もしくは、もう少しシンプルな話なのかもしれません。バンドは当時海の近くに家を借りていました。曲を手掛けたJoe Bouchardは浜辺を散歩していた時にメロディを思い付き、Albert Bouchardは一晩でやってみるよと言い、次の日に曲をアレンジして持ってきたそうです。Sandy Pealmanの詩を元に、兄弟で生みだした名曲の素敵なエピソードだと思います。添付画像の洋書 Martin Popoff著の”Agent Of Fourtune The Blue Öyster Cult Story”のP.48-49に詳しく書かれています。ご興味がある方はご覧ください。
カタツムリの歩みのような速度で進めており、いつになったら「天文学」の終わりまでいくのか。。。
次の節では「四方風の亭」の描写、非常に難解と思われるHellish glare and inferenceの節に続きます。引き続きお付き合いいただければ幸いです。
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