今回はブラック・サバスを彷彿させるブルー・オイスター・カルトの名曲をご紹介します。シングルカットされ大ヒットした代表曲ではありませんが、カルトを語る上では外せない魅力のある曲だと思います。ラジオでお馴染みのヒット曲だけがじゃないよということです。あれも、これもあり。すべてが面白いバンドなのです!
“Tyranny And Mutation”『暴虐と変異』
1973年にBlue Öyster Cultはセカンドアルバム”Tyranny And Mutation”邦題『暴虐と変異』をリリースしました。デビューアルバムと聞き比べると楽曲はより充実、演奏のレベルも向上。大相撲で例えるなら、若き白鵬関が濃い青色のまわしを締め番付を上がってきた頃のようでしょうか。N.Y.カレッジバンドが、全国区のロックバンドへと飛躍する直前、マグマのようなエネルギーにあふれた作品だと思います。バンドはこの頃、ロック界のカリスマ、アリス・クーパーとツアーにでています。アリス・クーパーの元でロックビジネスを学び、演奏能力も鍛え上げました。デビューアルバムで打ち出した「鋲付きの皮ジャンを着たバイカーでオカルティストのイメージ」が確立されたのもこの頃です。
アルバムの構成はとてもユニークです。A面・B面ではなく、Side 1 The Black、Side 2 The Redの構成。Side1はスピード感があり直線でぐいぐい行く感じ、Side2は勢いを維持しながらも湾曲に進んでいく感じです。Side1 Black(=黒)Side2Red(=赤)とは言い得て妙ですね。
オリジナル盤の収録曲と邦題
Side 1 The Black
1 The Red & The Black 赤と黒
2 O.D.’d On Life Itself 世界は俺のもの
3 Hot Rails To Hell 天国への特急便
4 7 Screaming Diz-Busters 7人の荒くれ
Side2 The Red
1 Baby Ice Dog ベイビー・アイス・ドッグ
2 Wings Wetted Down 堕ちた翼
3 Teen Archer 10代の射手
4 Mistress Of The Salmon Salt (Quicklime Girl) 塩鮭色の女王様(生石灰の娘)
“Tyranny And Mutation”の邦題は『暴虐と変異』。暴虐=黒、変異=赤。極めて秀逸な邦題だと管理人は思います。The Black, The Redのそれぞれの曲調、歌詞の意味を踏まえると「変異」ではなく「浮き沈み」が正しいのかもしれません。しかしながら、バンドの次作以降に受け継がれていくオカルト、SFを基軸にした世界観を端的に表しているのは「変異」でしょう。レコード会社が50年続くバンドの活躍を予見して「変異」と名付けたのであれば、あっぱれですね。日本語の邦題なるものの存在意義はここにあると管理人は思うのです。
以下画像は管理人所有のUSオリジナル盤です。The Blackが赤(Side1)The Red(Side2)が黒。タイトルとレコードの中心の色が入違っています。遊び心を感じますね。
Side1 The Blackの収録曲4曲はいずれも名曲。ライブでもおなじみの名曲揃いです。今回はThe Blackの裏面、埋もれがちなThe Redにスポットを当て、今まであまり語られてこなかった名曲”Wings Wetted Down”邦題『堕ちた翼』をご紹介します。
ベーシストのJoe Bouchardが手掛けた軽めなブラック・サバス
私はJoe Bouchardが手掛けた曲がとても好きです。例えば”Screams” “Hot Rails To Hell” “Wings Wetted Down” “Morning Final” “Nosferatu” ”Vengeance (The Pact)”など。彼の作品の魅力を一言で表現するならば「ベーシストが作ったとはっきりわかる曲」でしょう。ベースの音が際立つ曲の構成なのです。中でも” Wings Wetted Down”は管理人の大のお気に入り。この曲は私の好き!!な要素が凝縮されて詰まっています。
①かっこいいリフ
②目立つベースライン
③起承転結がしっかりしてる
④くどくど、長々としてない
⑤聞いててうんざりしない知的な歌詞
しっかりとしたベースラインの上に印象に残るクールなリフが乗る。起承転結がある。ヘヴィ・メタルからカルトを好きになった管理人にとっては親和性が高く、リラックスして聞ける曲なのです。
オープニングでは犬の遠吠え、その直後に、不吉な予感すらする重低音のリフが入ります。後半進むにつれて悲劇的様相が強まり、ベースとギターが絡み合いながらドラマティックなエンディングを迎えます。読者の皆様は覚えていらっしゃいますでしょうか?前々回に「カルトは軽めのブラックサバスとして売り出された」とお伝えしました。まさにこの曲です。ブラックサバスを彷彿させませんか?!勿論、サバスの真似っこをしているということではありません。当時、ロック界の先端を行っていたブラックサバスを彷彿させる雰囲気がありとても魅力的だということです。
カルトファンの間では知られた話ですが・・・
Martin Popoff氏の”Agents of Fortune Blue Öyster Cult Story”にとても興味深いエピソードが紹介されています。欧米のカルトファンの間ではわりと知られている話ですが、日本のファンにはあまり伝えられてないと感じます。Joe氏のコメントです。原文のままシェアします。
I have to confess several parts of the wards ‘freely’ adapted from Spanish poet Pable Naruda. Just a line here and there. It was an English translation I was reading at the time. But it was no more than John Lennon’s borrowing a line from Kahil Gibran. (hotrails.co.uK)
(Martin Popoff, 2016, p.23)
この記事を書くに当たりパブロ・ネルーダの日本語訳長編詩集を2冊読みましたが、Joe氏がどの箇所をadaptしたのかはわかりませんでした。英語訳を知らべたところ”Ode with a Lament”と題する詩に”wings wetted down”という表現がありました。当該箇所の前後を読み、ご本人がおっしゃる通りだったのだろうと管理人は推測しました。歌詞をadaptした経緯はあったとしても、この曲が優れた曲であることに変わりはありません。オマージュであることすら認めないアーティストがいる一方で、ユーモアを交えて正直に語ったJoe氏の実直さ。管理人は好ましく思います。
歌詞はシンプルながらも深みがあります。あたかも短編のゴシック小説のようです。登場人物は、黒い騎士、鳥の群れ、帝国の魔王(声のみ出演。)黒い騎士に従う鳥の群れは、雨の中を天に向かって上昇することを試みますが、叶いません。つまずき、よろめき、地を転がる。その様子がWings Wetted Downと表現されています。帝国の魔王の恐ろしい声がとどろき、天にあまねく広がる。かなり不気味ですね。鳥がどういう運命を辿るのか?全てはめぐりめぐって最後にわかると歌われています。エンディングでは” In the end, the end, the end”とリフレインされ、悲劇の要素が強調されて曲が終わります。
以下、対訳です。
“Wings Wetted Down” 邦題『堕ちた翼』
*2001年に再発されたCDのブックレットに記載されている歌詞を参照しました*
収録アルバム Tyranny and Mutation 邦題 『暴虐と変異』1973年リリース
作曲 Albert Bouchard、Joe Bouchard 作詞 Joe Bouchard リードボーカル Joe Blouchard
Flights of black horseman
Soar o’er the churches
Pursued by an army of birds in the rain
黒き騎士の飛行
教会の上を舞い上がる
雨の中 鳥の軍隊が続いて 天に向かって上昇する
None of them can see the clouds
The polished wings don’t care
Animal ways through the hazy
Dreams full of pain
群れのだれもが黒雲を見ず
なめらかな光沢のある翼は気にもとめない
獣の群れは苦しみに満ちたかすんだ夢を押し分けて進む
Wings wetted down
Stumbling on the ground
It all turns around
In the end, the end, the end
濡れ堕ちた翼
つまずきよろめきながら地を転がる
全てはめぐりにめぐる
最期にわかる
The voices sound deadly
Sometimes I hear
Echoes of empires
Spread throughout the sky
恐ろしげに声がとどろく
時々私には聞こえるのだ
魔の帝国のこだまが空にあまねく広がるのが
Wings wetted down
Stumbling on the ground
It all turns around
In the end, the end, the end
濡れ堕ちた翼
つまずきよろめきながら地を転がる
全てはめぐりにめぐる
最期にわかる
Flights of black horseman
Soar o’er the churches
Pursued by an army of birds in the rain
黒き騎士の飛行
教会の上を舞い上がる
雨の中 鳥の軍隊が続いて 天に向かって上昇する
Wings wetted down
It all turns around
It all turns around
In the end, the end, the end
濡れ堕ちた翼
つまずきよろめきながら地を転がる
全てはめぐりにめぐる
最期にわかる
曲のリンクを貼りました。お聞きになったことがない方はぜひクリックしてみてください。
いかがでしたでしょうか。『天文学』『死神』とはまた違った世界観、音質ですよね。ブルー・オイスター・カルトのあまり知られていない一面が皆さまに少しでも伝われば幸いです。今回もお付き合いいただきありがとうございました。
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