Blue Öyster Cultは “thinking man’s heavy metal” 「知性派が好むヘヴィ・メタル」①

ブルー・オイスター・カルト(Blue Öyster Cult)

前回の記事でふれた “thinking man’s heavy metal” についてです。Blue Öyster Cultの英語の記事、作品レビューなどで頻繁に見られる表現です。日本語訳すると「知性派向けのヘヴィ・メタル」という意味でしょうか。「思考する人のヘヴィ・メタル」ともいえますが、私はここに、じんわりとした皮肉のようなもののも感じてしまいます。ヘヴィ・メタルを好むものは思考をしないという前提で出てくる表現であるからです。(管理人はヘヴィ・メタルは知的な音楽と考えていますので、これについては反対の立場です。)

本題に戻ります。Blue Öyster Cult ファンの方々が バンドを”thinking man’s heavy metal” と称する理由、それはバンドのユニークなルーツと個性ゆえでししょう。私は3つの側面があると思います。音の多様性、歌詞、メタ認知的パロディ文化です。

まず、特筆すべき Blue Öyster Cult の音の多様性について考えてみます。これは、メンバーが幅広い音楽的な素養を持っていたことが大きく影響していると思います。Bouchard兄弟は若いころからピアノを習い、Joeはクラシック音楽の勉強もしていました。兄弟はBlue Öyster Cultに入る前からバンドでの音楽的な経験が豊富だったのです。サックス奏者の父を持つBuck Dharma(Donald Roeser)もバンドに加入する前から演奏の経験が豊富にありました。頭脳派でアイディアマンでもあったEric Bloomは、前進のバンドSoft White Underbellyのメンバーではなく、PA担当者としてスカウトを受けていました。ニューヨーク近郊で育ち大学に通っていた多様な音楽的素地を持つ有能な若者たちが、紆余曲折を経て結成されたバンドが Blue Öyster Cult だったのです。

フォークからストレートなロック、サイケデリックなロック、ハードロック、パンク、ヘヴィ・メタル、ジャズ、クラシック、彼らの曲からは色々質感の音を感じます。一つの作品に収録された曲が異なる性質、彩度を有するのです。激しめな曲でスタートし、最後はバラードで終わる、そのような予想される展開でなく、別種のものがシレっと訳知り顔で収まっている、そのような印象です。例えば、1976年にリリースされたAgent of Fortuneに収録されているThis Ain’t the Summer of Love→ True Confession →(Don’t Fear) The Reaper この3曲を初めて聞いて、同じバンドの演奏だとすぐに認識できる方は多数いらっしゃるでしょうか?この3曲は歌い手がEric→Allen→Donaldと変わるだけではなく、皮肉たっぷりなN.Y.のパンク→美しい洗練されたロック→ヒットしたおなじみの死神ソング、と印象も全く異なるのです。もし、(Don’t Fear) The Reaperしか聞いたことがないロックファンの方がいらっしゃいましたら、この3曲を通して聞くことを強くお勧めいたします。

また、曲を通して異なるタイプの音が交互に出現するような面白いパターンもあります。1979年にリリースされた MirrorsのB面1曲目 The Vigil という曲です。プログレのようだと称されていますが、サンタナのギターを感じさせるトーンもあり、教会の鐘も鳴り、ハードロックでもあり、華やかなギターソロもあります。6分半の曲が終わるときには、まるで他の時空を旅してきたかのような不思議な感覚を味わうことができるのです。これは他のバンドの曲を通してではなかなかない経験だと思います。

Blue Öyster Cultが “thinking man’s heavy metal” 「知性派が好むヘヴィ・メタル」である理由として次に考えられるのは、歌詞です。これはとても重いテーマですが、また次回で続けていきたいと思います。

Agent of Fortune (邦題「タロットの呪い」)のレコードジャケットです。タロット使いの男性の指の示す先にバンドのシンボルマーク、Kronosが描かれています。時空神でありSaturnと同格だそうです。

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